山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信

ワクチン、治療薬

モデルナ社ワクチンの臨床試験成績

Jackson et al., An mRNA Vaccine against SARS-CoV-2 — Preliminary Report. New England Journal of Medicine 7月14日オンライン版
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2022483?query=featured_coronavirus
(内容)
モデルナ社が開発中のmRNAワクチンにより第1相臨床試験の結果。45名の被検者(18歳から55歳)に対して、3つの投与量(25100250μg)を28日間隔で2回投与した(各15名ずつ)。2回投与終了後、被験者全員で抗体産生が認められ、その量は投与量に応じて増加した。抗体がウイルスの感染を防ぐ力があるかを示す中和活性も、全被検者で確認され、やはり投与量に応じて増大した。最大量投与群においては、感染から回復した人の血漿における中和抗体の中央値より高い値が得られた。
一方で、半数以上の被検者にいて、疲労感、悪寒、頭痛、筋肉痛、投与部痛などの副作用が認められた。
(コメント)
アメリカがOperation Warp Speedで開発を急ぐワクチン5種類の1つ。
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2768155
全例で中和抗体が確認され、期待の大きい結果。中和抗体がどれくらいの期間、持続するか?この程度の副作用が許容されるか、とくに高齢者や基礎疾患を有する人における安全性など、さらに慎重な検討が必要と思われる。
どれくらい大量生産できるのか、日本にも供給されるか、も課題。

ワクチンに求められる4条件

Lurie et al., The Development of COVID-19 Vaccines - Safeguards Needed. JAMA 7月6日オンライン版
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2768156
(
内容)
新型コロナウイルス感染症収束のためには、ワクチンの開発が最も期待される。アメリカはOperation Warp Speedと銘打った国家プロジェクトにより5つのワクチン候補に多額の支援をしている。しかし、世論調査の結果では20%の回答者が安全性への懸念からワクチンは接種しないと回答している。安全性を確保するためには、政治家の介入を許さないことに加えて、4つのポイントが需要である。
1.有効性の確認。
有効性の確認のためには、ワクチン接種により抗体ができるかどうかでは不確実であり、感染拡大地域における数千人を対象にした臨床試験を行い、実際に感染を予防できるの確認が必須である。少なくとも3つのワクチン候補で大規模な臨床試験が予定されており、数か月以内に結果が得られる可能性がある。健常人に加えて、高齢者や基礎疾患を有する人などハイリスクの人においても効果を確認する必要がある。
2.安全性の確認
やはり数千人を対象にした臨床試験で安全性を確認する必要がる。健常人に加えて、妊婦、医療従事者など感染者への接触の機会が多い人々、新型コロナウイルスにより全身性炎症疾患をきたす可能性が報告されている小児なども対象にする必要がある。
3.適切なインフォームドコンセント
パンデミック時で他に有効な予防法や治療薬がない状況においては、臨床試験を実施する側も、協力する側も前のめりになりやすい。有効性や安全性が十分には検証されていないことを十分に説明し、同意を得る必要がある。
4.承認後の徹底的な安全性検証
1976
年の豚インフルエンザに対するワクチンでは、10万人に1人の割合でギランバレー症候群の副作用が確認され、感染が落ち着いたこともありワクチンが接種は中止された。新型コロナウイルスにおいても、大規模接種が開始された後の、徹底的な安全性モニタリングが必須である。

アクテムラの効果

Guaraldi et al., Tocilizumab in patients with severe COVID-19: a retrospective cohort study. Lancet Rheumatology 6月24日オンライン版
https://www.thelancet.com/journals/lanrhe/article/PIIS2665-9913(20)30173-9/fulltext
(内容)
重症患者における抗リウマチ薬(アクテムラ)の効果を解析した論文。イタリアの3つの病院に入院した544名中、179名に対してアクテムラを静注、または皮下注で投与した。評価としては挿管による人工呼吸、もしくは死亡者の割合とした。その結果、挿管に至る割合は、アクテムラ投与群と非投与群では有意差は無かった。一方、死亡の割合はアクテムラ投与群では7%13/179)、非投与群では20%(70/365)と、アクテムラ投与群で有意に低かった。しかし、アクテムラ群では13%で新たな感染症の発生を認め、非投与群の4%より有意に発生率が高かった。

トップジャーナルが2論文を撤回

Two elite medical journals retract coronavirus papers over data integrity questions. Science 6月4日オンライン
https://www.sciencemag.org/news/2020/06/two-elite-medical-journals-retract-coronavirus-papers-over-data-integrity-questions
(内容)
Lancet
New England Journal of Medicineという臨床医学分野で最も権威のある医学雑誌が、新型コロナウイルスに関する論文を撤回した。Lancetの論文はマラリア治療薬であるクロロキンやヒドロクロロキンに心毒性があるという報告。New England Journal of Medicineの論文は、高血圧治療薬であるACE阻害薬が、新型コロナウイルス感染症を増悪させることはないという報告。両論文ともアメリカのベンチャー企業が、世界中の病院からの症例報告を集約し、マラリア治療薬やACE阻害薬の投与の有無以外は、年齢、人種、基礎疾患の有無などを揃えて比較検討を行った。しかし、データがあまりに揃い過ぎていることからデータ解析に疑義が生じたが、同社は生データの公開を拒否したため、他の共著者が撤回を申し出た。同社の解析は、本HPで4月27日に紹介したイベルメクチンが新型コロナウイルス感染症による致死率を下げるという査読前の論文(下記参照)でも使われていたが、同論文は現在では削除されている。
(コメント)
イベルメクチンの治療薬としての可能性が否定されたわけではない。進行中の臨床試験に期待したい。

イベルメクチンが有効か

6月7日追記 本論文は現在では削除されている。

Patel et al., Usefulness of Ivermectin in COVID-19 Illness. SSRN 4月19日掲載
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3580524
(内容)
査読前の論文。大村智先生が開発したイベルメクチンの、新型コロナウイルスに対する治療効果を検討したコホート研究。アメリカ、ヨーロッパ、アジアの169病院から、治療としてイベルメクチンを用いた704名を抽出した。比較対象として、年齢、性別、人種、喫煙の有無、高血圧や糖尿病などの基礎疾患の有無をマッチさせた、イベルメクチン非使用例の704名を抽出した。イベルメクチンの投与量は平均150/kgの1回投与!。これは皮膚科での疥癬等の治療に用いられている量と同じ。ただ、患者の状態により医師が増減した。2群の致死率を比較すると、イベルメクチン使用群は1.4%、コントロール群は8.5%であった。重症化し気管内挿管を行った患者の致死率は、イベルメクチン使用群は7.3%、コントロール群は21.3%であった。
(コメント)
イベルメクチンの治療効果が症状の軽重に関わらず期待される。今後、ランダム化比較試験を行う必要がある。オーストラリアの報告で、培養細胞への感染実験では、イベルメクチンの1回投与で、ウイルス量が48時間以内に5000分の1になった。今回の臨床での結果を裏付ける。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166354220302011

抗血漿療法の無作為試験による評価

Lin et al, Therapy on Time to Clinical Improvement in Patients with Severe and Life-threatening COVID-19 - A Randomized Clinical Trial
JAMAのサイト

(内容)
中国武漢からの報告。重症や重篤患者103名を血漿投与群52名、コントロール群51名に無作為に分けて、回復(退院、もしくは6段階評価で2段階改善)までの時間を比較した。28日間で回復したのは血漿投与群で51.9% (27/52)、コントロール群43.1% (22/51) であり、hazard ratio [HR]1.40 [95% CI, 0.79-2.49]; P = .26)であり統計学上の有意差は無かった。重症患者においては、血漿投与群では91.3% が回復し、コントロール群の68.2% (15/22) より有意に多かった (HR, 2.15 [95% CI, 1.07-4.32]; P = .03)。重篤群では20.7% (6/29)24.1% (7/29) (HR, 0.88 [95% CI, 0.30-2.63]; P = .83)、有意差は無かった。28日後の致死率にも有意差が無かった (15.7% vs 24.0%; OR, 0.65 [95% CI, 0.29-1.46]; P = .30) 。

(コメント)
中和抗体の力価の強い血漿のみを使い、無作為に血漿投与群とコントロール群に分けた重要な研究。重症群では抗血漿の効果が認められている。しかし重篤群では差は無かった。重篤群ではサイトカインストーム等により全身状態が悪化しており、抗血漿で抗原を中和しても十分な効果が得られないのかもしれない。治験では200名以上の参加者を計画していたが、武漢での感染が急速に収束したために100名程度の規模となった。今後、より大規模の臨床試験が必要である。

ワクチン開発は迅速に、しかし拙速は禁物

Trogen et al., Adverse Consequences of Rushing a SARS-CoV-2 Vaccine -Implications for Public Trust. JAMA 5月26日オンライン版
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2766651
(内容)
新型コロナウイルス対策の決め手としてワクチン開発が期待されている。世界中で開発が行われており、少なくとも7つのワクチンが臨床試験に入っている。トランプ大統領はOperation Warp Speedと命名した政策により、2021年初頭までにアメリカ国民にワクチンを届けると宣言した。
しかし私たちは、ワクチンに対する根強い不信感を忘れてはならない。2019年、WHOは、ワクチン接種拒否はグローバルヘルスを脅かす10の驚異の1つであると位置づけた。特に子供に対するワクチン接種への反対により、麻疹、百日咳、インフルエンザなど、本来は予防できる感染症が増加傾向にある。
ワクチンに対する(そしてワクチンを推奨する医師や研究者に対する)不信感の多くは、インターネットや懐疑的な団体からの誤った情報に基づいている。例えば、ワクチン接種より自閉症などの副作用が生じるといったことは、慎重な科学的検証により明確に否定されている。
しかし、ワクチンが実際に被害をもたらしたこともある。1955年のソーク氏によるポリオワクチンの開発もその一つである。ポリオワクチンの一部に、感染性のあるウイルスが混入していたため、7万人以上が筋力低下を示し、164名は麻痺が残り、10名が死亡した。この前例により、ワクチン開発の臨床試験が厳格化された。
ただ、1976年の豚インフルエンザ流行時には、過ちが繰り返された。フォード大統領がワクチン接種を大規模に推奨したが、一部のワクチンが誤った系統のウイルスから製造され、高熱や接種部の疼痛といった副作用をもたらす一方、ワクチンとしての効果は認められなかった。
新型コロナウイルス収束のためにワクチン開発は極めて重要であるが、厳格な科学的検証により安全性と効果が確認されなければ、過去の過ちを繰り返すのみならず、ワクチン全体に対する不信感を増大させてしまう。

アビガンに関する2論文

Cai et al., Experimental Treatment With Favipiravir for COVID-19: An Open-Label Control Study. Engineering 318日 オンライン版
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32346491/?from_term=favipiravir+covid-19&from_pos=6
(内容)
アビガンを投与した35名と抗HIV薬カレトラを投与した45名の比較検討。両群共にインターフェロンαが投与された。ウイルス消失までの日数は、アビガン群が4日、カレトラ群が11日であった(P < 0.001)。胸部CTでの改善はアビガン群では91.43%に、カレトラ群では 62.22%に認められた (P = 0.004)。有害事象もアビガン投与群の方が少なかった。

Pilkington et al., A Review of the Safety of Favipiravir - A Potential Treatment in the COVID-19 Pandemic?. J Virus Erad. 2020;6(2):45‐51. Published 2020 Apr 30.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7213073/

(内容)
アビガンの副作用について文献やWeb上の公開データをまとめた総説。
日本のPMDAからのものを含む29報告について解析。対象は、健常人、インフルエンザ患者、エボラ出血熱患者で、計4299名。対称として用いられた薬は、カレトラ、タミフル、アルビドール、もしくは偽薬であった。解析の結果、副作用の頻度、副作用が原因の服用中止、および重篤な副作用の頻度において、アビガン群と対象群で統計的に有意な差は認められなかった。消化管症状の発現頻度は、アビガン群の方が少なかった。しかし、高尿酸血症の発現頻度は、アビガン群の方が有意に多かった。
(コメント)
高尿酸血症は要注意。催奇形性やQT延長などの心毒性は本解析では評価されていない。
催奇形性は製造した製薬会社も、PMDAも認識しており、服用後、1週間は受精を避けることとされている(PMDAの公開文章)。

レムデシビルの国際共同治験(人種差に注意)

Biegel et al., Remdesivir for the Treatment of Covid-19 — Preliminary Report. New England Journal of Medicine 522日オンライン版
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2007764?query=featured_home
(内容)
レムデシビルの効果を調べた臨床試験の速報。アメリカ国立アレルギー・感染症研究所が資金を提供した10か国の国際共同治験。日本も参加している。1053名の患者をレムデシビル投与群とコントロール群の2つに分け、臨床経過を比較。その結果、回復(退院もしくは無治療での入院)までの期間は、レムデシビル群で11日、コントロール群で15日であった。また14日目の致死率はレムデシビル群で7.1%、コンロトール群で11.9日であった。有害事象の発生率は両群で差がなかった。以上の結果より、新型コロナウイルスに対して、レムデシビルは有効であることが示唆された。患者を症状別に分けると、酸素投与が必要な中等症群でレムデシビルの効果が統計学上有意であった。しかし、より高度の呼吸管理が必要な患者では効果が減弱し、人工呼吸器やECMOが必要な患者では有意な効果が観察されなかった。また人種別では、白人では有意な効果があったが、黒人では効果は少なく、アジア人では効果が認められなかった。
(コメント)
アメリカや日本ではこの臨床試験を根拠にレムデシビルの緊急承認を行ったと考えられる。アジア人では効果が見られなかったことは注意を要する。4月末の中国からの報告では、レムデシビルの効果は認められなかったが、人種差による可能性もある。

BCGワクチンの影響ーイスラエルの研究

Hamiel et al., SARS-CoV-2 Rates in BCG-Vaccinated and Unvaccinated Young Adults. JAMA 5月13日オンライン
JAMAのリンク

(内容)
BCGワクチン接種国(特に日本やロシア株を用いている国)では、新型コロナウイルスの感染者数、死亡者数が少ない傾向がみられる。イスラエルでは1955年から82年まではBCGワクチンが推奨されており、90%以上の接種率であった。一方、82年以降は、結核蔓延地域からの移民にのみBCG接種が行われている。今回、1979 から1981年生まれ (39-41歳) の3064名と、1983 から1985年生まれ (35-37 歳)の2809名においてPCR検査を実施したが、陽性率は11.7%と10.4%で有意差が無かった。それぞれの群で重症化例はそれぞれ1例であった。今回の解析からはBCGワクチンの効果は確認できなかった。
(コメント)
イスラエスで用いられたワクチンが日本・ロシア型かデンマーク型かは不明。より高齢者での効果も不明である。

レムデシビルの臨床試験

Wang et al., Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial. Lancet 4月29日オンライン公開
https://marlin-prod.literatumonline.com/pb-assets/Lancet/pdfs/S0140673620310229.pdf
(内容)
中国、湖北省からの報告。酸素吸入が必要な中等症の患者が対象。158人にレムデシビルを、79人に偽薬を投与。臨床症状を6段階(1は退院、6は死亡)で評価し、2段階以上の改善、もしくは退院までの期間を評価した。その結果、レムデシビルによっても、回復が早くなるという結果は得られなかった。ただ、発症して10日までにレムデシビルを投与した患者では、統計的に有意ではないが、50%程度、回復が早まる傾向はみられたので、より大規模な臨床試験が必要である。
同じ研究グループは3月末に、抗HIV薬であるリトナヴビル・ロビナビルの効果が確認できなかったことをNew England Journal of Medicineに報告している。
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(コメント)
高い期待を集めているレムデシビルだが、過度の期待は禁物であることを思い知らされる結果。しかし、早期に投与すれば効果ある可能性は残された。
米国・国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長はホワイトハウス(White House)で記者らに対し、「アメリカが主導している臨床試験で、レムデシビルには、回復までの期間を短縮させる効果があることが示された」と表明。新型コロナウイルス治療薬として初の承認薬になることを示唆している。
https://www.nytimes.com/2020/04/29/health/gilead-remdesivir-coronavirus.html

Bリンパ球が重症化に関与か

Quinti et al., A possible role for B cells in COVID-19?: Lesson from patients with Agammaglobulinemia. Journal of Allergy and Clinical Immunology 公開予定
(内容)
細菌やウイルスを攻撃する抗体はBリンパ球で作られる。遺伝子異常により抗体を作ることのできない患者は、免疫不全となる。遺伝子異常によりBリンパ球が機能不全となり抗体を作ることのできない5名の患者が新型コロナウイルスに感染したが、全員が重篤な肺炎となった。一方、違う遺伝子異常が原因で、Bリンパ球が存在しない(したがって抗体もできない)2名の患者が新型コロナウイルスに感染したが、肺炎は起こらず軽症であった。このことから、Bリンパ球が産生する炎症性サイトカイン(IL6)などが、新型コロナウイルスによる肺炎や全身状態の悪化に関与している可能性が示唆された。
(コメント)
アビガン等の抗ウイルス薬は、感染初期に効果が期待されています。一方で、重篤した場合は、ウイルスそのものに加えて、過剰な免疫反応で産生されたIL6等を抑えることが治療につながる可能性があります。先日、前大阪大学総長の平野先生が提言されていたポイントです。
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ワクチン開発の現状と見通し

Ammanat and Krammer, SARS-CoV-2 Vaccines: Status Report. Immunity 4月6日オンライン版
(内容)
ウイルス感染を予防するワクチンの開発は、新型コロナウイルスとの闘いを終息させる鍵となる。世界中でワクチンの開発が進んでいる。しかし、実際的に考えると、臨床試験が始まったとしても、実際にワクチンの効果が期待できるのは1年から1年半後である。
ワクチンの技術は過去10年間で劇的に進化している。またSARSやMERSの研究から、新型コロナウイルスについてもウイルスのどの部分をワクチンとするべきかわかっている。したがって臨床試験までは、早ければ数か月で到達できる可能性がある。実際、1つの臨床試験が始まっている。しかし、臨床試験においては、第1相から第3相まで徐々に対象を増やし、安全性と効果を慎重に見届ける必要がある。臨床試験が終わっても、FDA(アメリカ)、EMA(EU)、PMDA(日本)から承認を受ける必要がある。承認を受けた後で、何百万人から何億人用のワクチンを大量生産する必要がある。また人類は新型コロナウイルスに対する免疫を持っていないので、ワクチンは3~4週間隔で2回必要な可能性が高い。抗体ができるのは2回目の接種から1~2週後である。これらを考えると、臨床試験に入ってからも最低半年、通常では1年から1年半を要する。
https://www.cell.com/immunity/fulltext/S1074-7613(20)30120-5

新型コロナウイルス治療薬の現状

Sanders et al., Pharmacologic Treatments for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). 米国医師会誌4月13日オンライン版
(内容)
新型コロナウイルスの治療薬としては、現時点では効果が科学的に確認されたものはない。しかし、他の病気の薬や、開発中の薬について、世界中で少なくとも109件の臨床試験が進行している。
著者らが一番、有望としているのはエボラ出血熱で使用されているRemdesivirである。これはウイルスの遺伝子であるRNAの合成を低濃度で阻害する。子供や妊婦にも使える。日本で期待されているアビガン(Favipiravir)もRNA合成を阻害するが、Remdesivirより高濃度が必要で、催奇形性があるため妊婦には使えない。またアメリカでは今のところ使用できない。マラリアやSLEで用いられているクロロキンやヒドロクロロキンは、ウイルスの細胞侵入を抑えると考えられ、新型コロナウイルスに対する臨床試験が行われている。これまでのところ効果があるという結果、無かったという結果の両方が報告されている。心毒性や腎毒性などの副作用にも注意が必要。lopinavir/ritonavirは抗HIV薬であり、ウイルスの増殖に必要なタンパク質分解酵素を阻害する。新型コロナウイルスにも治療効果が期待されるが、中国での臨床試験の結果によると、コントロールと比べて統計学的に有意な効果は観察されなかった。Camostat mesylateは膵炎の治療薬として日本で承認されている。ウイルスの細胞侵入に必要なタンパク質分解酵素TMPRSS2を阻害することから、新型コロナウイルスに対しても治療効果が期待される。

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2764727?guestAccessKey=72e8a5f3-3754-4bf8-bb17-8c2f1cf358b0&utm_source=silverchair&utm_medium=email&utm_campaign=article_alert-jama&utm_content=olf&utm_term=041320

新型コロナウイルス感染症克服への道

Hirano and Murakami COVID-19: a new virus, but an old cytokine release syndrome. Immunity 掲載予定
(内容)
大阪大学前総長、インターロイキン(IL)6を発見した平野俊夫先生による論説。
新型コロナウイルスの治療薬としては、受容体であるACE2や、細胞への侵入に必要なタンパク質分化酵素であるTMPRSS2に作用する薬物が期待されている。一方で、ACE2がウイルスにより阻害されることによりアンギオテンシンIIの作用が過剰になり、IL6などのサイトカインが異常に活性化されることが重篤化に関与していると考えられる。したがって、IL6やその下流であるSTAT3に作用する薬物も、新型コロナウイルス治療薬の重要な候補となる。
https://marlin-prod.literatumonline.com/pb-assets/products/coronavirus/immuni4349_S5.pdf
平野先生ご自身の解説は
こちら

血漿療法に対する米国医師会誌の論説と、臨床試験推進の取り組み

Shen et al.の5例の結果についてのコメント。
(内容)
期待の持てる内容ではあるが、投与が5例のみと限られており適切な対象群が設定されていない。抗HIV薬やステロイドなど他の治療も同時に行われており、本当に血漿が効いたのかは不明。今後、対照群をおいたより大規模な臨床試験により、用量、投与時期、効果の期待できる患者の予測、血漿が良いか、精製濃縮した高免疫グロブリン(H-Ig)が良いかなどを検討することが必要である。
https://ccpp19.org/_docs/scientific-papers/CP-IN-COVID-19/JAMA-COMMENTARY-ON-USE-IN-CHINA.pdf

またこの論説では臨床試験を推進するための国を挙げての取り組みが必要としていますが、早速、全米50の大学や機関が活動を開始しています。
https://ccpp19.org/index.html

日本でも同様の活動が期待されます。

可溶性ACE受容体による感染抑制(iPS細胞を活用した論文)

Monteil et a., Inhibition of SARS-CoV-2 infections in engineered human
tissues using clinical-grade soluble human ACE2. 
Cell Pressの発行する科学雑誌(多分、Cell誌)で査読され採択された論文。校正前であるが4月3日に公開された。
(内容)
iPS細胞から血管組織を作り、新型コロナウイルスが感染することを確認した。培養液中に可溶性のACE2受容体を加えることにより、ウイルスの細胞への侵入が抑制された。ウイルス実験に良く使われるVero細胞やES細胞由来の腎臓様組織でも同様の結果が得られた。ACE2が、新型コロナウイルスの受容体(の少なくともその一つ)であることが証明された。また可溶性のACE2が治療薬の一つのなりうることが示された。
(コメント)
iPS細胞が新型コロナウイルス研究にも役立っています。私達も頑張ります。

https://www.cell.com/pb-assets/products/coronavirus/CELL_CELL-D-20-00739.pdf

アビガンの臨床試験(査読前の論文)

本論文は521日現在で依然、査読中のようです。下記で紹介したのはVer.1ですが、最新のVer.4では
Clinical recovery rate of Day 7 does not significantly differ between Favipiravir group (71/116) and Arbidol group (62/120) (P=0.1396, difference of recovery rate: 0.0954; 95% CI: -0.0305 to 0.2213).
と記載が変わり、有意差はないことになっています。ご指摘頂き、有難うございました。

Chen et al., Favipiravir versus Arbidol for COVID-19: A Randomized Clinical Trial. MedRxiv 3月27日公開
(内容)
2種の抗インフルエンザ薬(アビガンとアルビドール)の新型コロナウイルスに対する効果を比較検討した。アビガンは日本で開発され、新型インフルエンザ流行時にのみ生産が認められるという条件付きで承認されている。これは動物実験において、胎児に奇形を引き起こすことが示されているから。アルビドールは中国とロシアで抗インフルエンザ薬として用いられている。今回のの新型コロナウイルス感染者に対する臨床研究においては、240名の中等症患者を無作為に120名づつの2群に分け、1群にはアビガンを、他の1群にはアルビドールを投与した。7日目の回復率を、解熱、呼吸の正常化、血中酸素濃度の正常化、咳の消失から判定した。その結果、アビガン投与群では71.43%が、アルビドール投与群では55.86%が回復し、アビガンの方が統計的に見て有意に高い治療効果を示した。一方、アビガン投与群では、肝機能検査異常、尿酸値上昇、消化管症状、精神症状の発生率が、アルビドール投与群より高かった。
(コメント)
患者は無作為に2群に分けられたが、本人や医師はどちらの群かが知らされおり、2重盲検ではない。PCRでウイルス陽性が確認されているのは両群とも半分以下。アビガン投与群では18名、アルビドール投与群では9名が重症となった。より厳密な臨床試験が必要。また重症や重篤患者における効果も不明。

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.17.20037432v2

重篤患者に対する、回復期患者からの血漿輸血療法

Shen et al., Treatment of 5 Critically Ill Patients With COVID-19 With Convalescent Plasma. 米国医師会誌 3月27日オンライン版
(内容)
人工呼吸が必要である5名の重篤患者(36歳から63歳)に対して、回復期の患者から採血した血漿を輸血したところ、5名全員で改善が認められた。3名は退院。2名は安定状態にある。5名のみの結果であるので、今後は、コントロール群をおいた、より詳細な解析が必要である。
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2763983

BCGが新型コロナウイルスにも効果?

Vrieze. Can a century-old TB vaccine steel the immune system against the new coronavirus? Science 3月23日オンライン版
(内容)
結核に対するBCG予防接種が、新型コロナウイルスに対する効果を検討するための臨床試験が、オランダ、オーストラリア、イギリス、ドイツの4か国で行われる。医療従事者や高齢者が対象。BCGは結核以外に、様々な感染症全般への予防効果が以前から指摘されている。実際に新型コロナウイルスに有効かどうかは、今回の臨床試験の結果を待つ必要がある。
https://www.sciencemag.org/news/2020/03/can-century-old-tb-vaccine-steel-immune-system-against-new-coronavirus#
(コメント)
新型コロナウイルスの感染予防のために、新たにBCG接種をすることは推奨されません
http://www.jsvac.jp/pdfs/kenkai.pdf

BCGと新型コロナウイルスについては東北大学大隅典子先生がブログで解説されています。
https://nosumi.exblog.jp/28020527/
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