山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信

ウイルスの特性

回復者における中和抗体(課題と可能性)

Robianni et al., Convergent antibody responses to SARS-CoV-2 in convalescent individuals. Nature 6月18日オンライン版
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2456-9
(内容)
新型コロナウイルス感染症からの回復者149名において、中和抗体(ウイルス感染を防止する力のある抗体)活性を測定した。残念ながら33%の回復者においては、中和抗体活性は検出限度未満であり、46%では弱い活性が検出された。強い中和抗体活性が認められたのは1%のみであった。強い活性を認めた回復者からは3種類の中和抗体が検出され、いずれも新型コロナウイルのSタンパク質、その中の受容体結合部位(RBP)に対する抗体であった。これらの抗体は、149名全員において(多くの回復者においては微量ながら)検出された。
(コメント)
感染から回復しても1/3においては中和抗体がほとんど出来ていないというのは、残念な結果。一方で、すべての回復者において微量であっても中和抗体が検出されたことは、ワクチンのデザイン次第では中和抗体の誘導が可能であることを示唆する。

D614G変異に注意

Koyama et al., Emergence of Drift Variants That May Affect COVID-19 Vaccine Development and Antibody Treatment. Pathogens 2020, 9(5), 324
https://www.mdpi.com/2076-0817/9/5/324/htm
(内容)
RNA
ウイルスである新型コロナウイルスは、増殖を繰り返すうちに遺伝子変異が蓄積している。多くの変異はウイルスの機能に影響を及ぼさないが、本論文はD614G変異に注目している。これはウイルス表面に突き出しているSタンパク質の中で、抗体との反応性を決めると考えられる重要な部位における、アスパラギン酸(D)からグリシン(G)への変異であり、タンパク質の構造を大きく変化させると予測される。世界から報告されているウイルスの遺伝子情報を解析した結果、D614G型のウイルスはヨーロッパで多く、特にフランス、オランダ、スイスなどでは大部分を占めていることが分かった。
(コメント)
iPS
細胞のゲノム解析で共同研究をしているIBM社小山さんから教えて頂きました。
これとは別のサイエンス誌の論文
https://science.sciencemag.org/content/early/2020/05/28/science.abc1917
では、アメリカニューヨーク州でも、ヨーロッパ由来と考えられるD614G型が大部分を占めている。(論文中ではなぜかD624Gと記載されている)
一方、別のサイエンス誌の論文
https://science.sciencemag.org/content/early/2020/06/05/science.abb9263
では、北カリフォルニアでは、D614G型は、少数派のようである。
世界のウイルス変異をまとめているGISAID
https://www.gisaid.org/epiflu-applications/next-hcov-19-app/
を見ると、日本でもD614G型が半数近くを占めている。
ウイルスの抗原性に重要な変異と考えられ、ワクチン開発や抗原・抗体検査において留意すべきである。

東アジアにおけるD614G型(黄色)の頻度。(GISAIDより)

喫煙はウイルス侵入を手助けか?

Smith el al., Cigarette smoke exposure and inflammatory signaling increase the expression of the SARS-CoV-2 receptor ACE2 in the respiratory tract. Developmental Cell オンライン版
https://www.cell.com/developmental-cell/fulltext/S1534-5807(20)30401-9
(内容)
新型コロナウイルス感染の重症度と相関する因子として、高齢、男性、喫煙が報告されている。本論文では、これらの危険因子と、ウイルスが細胞に侵入するときに利用するACE2遺伝子の発現量との相関を検討した。まずマウスやラットから肺組織におけるACE2遺伝子発現量を調べたが、年齢や性差による影響はなかった。しかし、たばこの煙5カ月にわたって暴露させると、ACE2の発現量増加が認められた。人間のサンプルでは、肺に加えて腎臓と小腸でACE2の発現が確認された。年齢や性差による影響はなかったが、喫煙者では肺におけるACE2の発現量が多かった。喫煙量とACE2発現量には正の相関があった。また1年以上、禁煙することにより、ACE2の発現は減少した。さらに新型コロナウイルスの感染や、インターフェロンの刺激によりACE2遺伝子の発現が増加した。
(コメント)
喫煙者で重症化が多い原因の一つは、ACE2遺伝子の発現上昇かもしれない。

遺伝子変異から見たウイルスのファミリーヒストリー

Forster et al., Phylogenetic network analysis of SARS-CoV-2 genomes. 米国科学アカデミー紀要
https://www.pnas.org/content/early/2020/04/07/2004999117
(内容)
新型コロナウイルスは細胞分裂のたびに少しづつ遺伝子に変異が起こる。遺伝子変異を調べることにより、世界中のウイルスのファミリーヒストリーを推測することが出来る。本論文では世界各地から報告された253名由来のウイルス遺伝子解析の結果を比較した。ほとんどのウイルスの遺伝子は少しずつ違いがあるが、A、B、Cの3型に大別すること出来た。
A型はコウモリのコロナウイルスに一番近いもので、A-TとA-Cのサブクラスに分類できる。A-Tは4名の広東省の4名、武漢滞在歴のある2人のアメリカ人、そして3人の日本人にみられた。A-Cは33名でみられ、約半分は武漢などの中国や東アジアであったが、残りの半分はアメリカ、カナダ、メキシコである。
B型は、A型と比べて2か所の配列の違いが特徴であり、93名でみられた。74名は武漢などの中国や東アジアでみられたが、残りはアメリカ、カナダ、メキシコ、ヨーロッパでもみられた。東アジアのウイルスの変異は少なかったが、アメリカやヨーロッパのウイルスでは多くの変異が見られた。
C型では、B型からの1か所の遺伝子変異が共通してみられる。ヨーロッパで多くみられ、中国からは報告されていない。しかし、シンガポールや香港では見つかっている。
(コメント)
ワクチンを作っても遺伝子変異で無効になる可能性がある。遺伝子の変異に応じて、治療法を考えるべきかもしれない。

Tangらは3月3日に発表した論文
https://academic.oup.com/nsr/advance-article/doi/10.1093/nsr/nwaa036/5775463
で、新型コロナウイルスをS型とL型に分けている。L型はS型が変異して生じた。L型の方がより感染力が強い。武漢ではL型が多かったが、その後の強力な封じ込めにより他の地域ではL型が減少し、S型が中心になったとしている。
この論文に対しては過大解釈であるという批判がある。
http://virological.org/t/response-to-on-the-origin-and-continuing-evolution-of-sars-cov-2/418
しかし、変異の種類から見ると、TangらのS型はForsterらのA型に、L型はBとC型に相当する。

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